第30回
糖尿病治療の進歩と今後の課題内科
肥満や運動不足などライフスタイルの変化に加え、高齢者人口の増加により糖尿病を発症している方が増加してきています。高血糖が長期間続くと様々な合併症、とくに毛細血管障害の三大合併症(神経障害・網膜症(眼底出血)・腎症)を発症します。現在、糖尿病の治療は著しく進歩しており、眼科領域においても治療法の進歩により失明などの重篤な障害は減少しつつあります。糖尿病の治療の基本は食事療法と運動療法ですが、ほとんどの患者さんはこの二つの治療だけでは十分な血糖コントロールを得られず、薬物療法が必要となってきます。これまで最も一般的に処方されていたのはSU剤やメトホルミンでしたが、これらは副作用が起きやすく、他の薬剤が必要とされていました。
近年、新たな糖尿病治療薬(DPP-4阻害薬・SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬など)が使用できるようになり、これらは単独使用では低血糖が起きにくく、特にSGLT2阻害薬では体重減少効果も期待できます。低血糖に関しては、特に高齢者では無自覚低血糖の方がおられ、以前は低血糖状態が長引く遷移性低血糖になり意識障害、転倒骨折や心血管合併症を起こすことがありました。しかし新薬による治療により遷移性低血糖は稀になってきました。高齢者ではHbA1cを下げすぎないことが重要です。
一方、近年増加している高齢糖尿病患者さんにおいては動脈硬化が進行し、大血管障害による脳梗塞、心筋梗塞や認知症なども発症し新たな問題となっています。また、高齢糖尿病患者さんには骨粗鬆症やがん、特に膵臓がんの合併頻度が高いことが明らかになっており、年齢別による食事療法の指導や定期的な精査が必要です。
最後に、フレイル(加齢に伴って心身の機能が衰え虚弱となった状態)を合併している糖尿病患者さんには薬剤の減量や変更など慎重に検討することが課題となっています。