第20回
慢性心不全での再入院を予防しましょう!
-心臓リハビリテーションを中心に-内科
- はじめに
- 慢性心不全とは、全身に血液を送る心臓の機能が低下するために、体を構成する臓器や骨、皮膚などに必要な酸素、栄養を送ることができなくなるため、各種臓器の機能が低下し、症状を呈することを言います。たとえば、頭への血流が低下すると、反応や記憶が悪くなり一見認知機能が低下したように見えたり、腎血流が低下するとおしっこの出が悪くなり、足がむくんだり、少し動いても息が苦しくなったりなどの症状を呈するようになります。心臓の機能が悪くなる原因は弁膜症や心筋梗塞、心筋症などいろいろありますが、適切な治療と内服薬、生活指導を厳守することで、心不全症状を呈することなく生活をなされている方は沢山おいでになります。
今回は心不全症状を悪化させることなく快適な生活を営むためにはどんな注意をしたらいいか、一般の方々、脳、整形疾患のリハビリを行っている方々へのお話です。 - 心不全の再入院を予防
- 病院の外来や退院時に主治医、看護師さんは、皆様が一日でも長く良い状態で、再入院することなくご自宅で過ごして頂くために服薬指導、生活指導を行います。
- 心臓のお薬は基本的に勝手にやめてはいけません。心臓の負担を軽減し、症状が無くなり治ってしまったような錯覚に陥り自己中止する方がいます。その結果、心不全が悪化してしまう事があります。当然、内服薬は決められた量を決められた通りに服用しなければなりません。
- 次に、食事指導を行います。減塩、体重管理を中心に行います。塩分は体内の水分貯留をすすめ血圧を上昇させます。体重増加は動いた時の負担を増加させます。血圧・心拍数の上昇を招き心臓への負担を増加させ、心不全を誘発させる可能性を大きくします。
- 日常生活の制限も行うことがあります。たとえば夜行バスの運転手等の精神的、肉体的負荷の大きな職種から事務職への配置転換を指導したり、今まで寒い時でも農作業を行ってきたおばあちゃんには、"口は出しても手は出さない"ように指導したりします。よく主治医の先生が、患者さんの日常生活上の過負荷を予防するために「無理はしないで下さいね。」と話されます。具体的に「"無理をしない"とはどうゆうこと?」と思われる方が多くおいでになります。心臓負荷の程度からの目安では「息が上がらない程度、もうちょっとだからといって頑張らないこと(たとえば階段では途中で休みを入れる事)、普段の生活とあまり違ったことをしないこと(温泉旅行に行って何回も入浴することなど)」を指します。その他、夜の生活?飲酒は?ゴルフは?などなど聞きたい事はたくさんあると思います。是非遠慮なく主治医の先生に聞いて下さい。
- "保温に気をつけて、寒暖の差に気をつけてください"と冬の外来に行くと帰り間際に看護師さんに声をかけられます。これは、風邪、インフルエンザなどの感染予防だけでなく、寒冷刺激による一過性血圧上昇を予防し心臓への負担をかけないようにするためです。逆に、入浴時は寒い廊下、脱衣所で上昇した血圧が、温かいお風呂につかることで血管が一気に拡張し、弱っている心臓が血圧低下に反応しきれずに脳血流の低下を招き失神などを起こす可能性があり注意を要します。
- 「運動は心機能、予後を改善します。ですから "適度な運動" して下さい。」と主治医が皆さんに指導する時によく使用するキーワードです。それでは"適度な運動"とは具体的にどんな運動を主治医は考えているのでしょうか?患者さんはどう理解しているのでしょうか。おそらく多くのお医者さんは、比較的若い患者さんであれば、軽やかなウォーキングや軽いスポーツをしている姿を想像し、高齢の方は、杖や歩行器を用いて歩いている姿を想像するのではないでしょうか?
- 適度な運動と心臓リハビリテーション
- 「健康維持のためには1分間に100歩前後のスピード歩行を毎日行いましょう。」
1分間に100歩とは
100歩×60分×50cm(~70cm)÷100cm÷1000m=3km/時~4.2km/時
よく"時速4kmぐらいのスピードで歩きましょう"と指導することがありますが、あくまでも身体機能障害や心疾患、呼吸器疾患の無い方の話です。
"それでは全ての人に共通する適度な運動の目安とはなんでしょうか?"という話になります。リハビリテーションとは、失われた機能を回復させることと定義されますが、その内容は多岐にわたり、疾患を有する患者さんにとっては身体的、精神的、社会的脱調節状態からの改善、状態維持、進行の遅延化などを目的とします。(実は疾患予防も含まれます。)現在、脳神経疾患、整形外科的疾患に加えて心臓疾患、呼吸器疾患、悪性腫瘍(癌疾患)などへのリハビリテーションが急性期から特定期間、保険で認められています。
心臓リハビリテーション的に"適度な運動とは何か"について説明します。心臓にとって適度とは、不整脈をはじめ心筋虚血などの心臓発作を起こさず、尚且つ心機能改善に有用な心拍数や血圧を維持できる運動負荷量と定義できます。このレベルを嫌気性代謝閾値といって、今はやりの有酸素運動レベルという事になります。簡単に有酸素運動を説明しますと歩行やジョギングで足の筋肉を使用する場合、筋肉は酸素を必要とします。必要とする酸素を滞りなく十分に供給できる運動量を有酸素運動といいます。肺・心臓・血管・血液の機能が必要とする酸素運搬に対応できる範囲という事です。酸素を運搬できる量の酸素を使用する量が上回ると、筋肉内では疲労物質といわれる乳酸が蓄積し突然動けなくなったりします。(箱根駅伝などがいい例です。突然失速します。)運動強度が嫌気性代謝閾値以下であれば、運動に必要なエネルギー・酸素が十分供給され、乳酸は過度に上昇しません。この場合、運動はエネルギーの枯渇、高体温、筋肉痛などの因子により制限されない限り、長時間継続することができます。ちなみにテレビ等で有酸素運動(エアロビクス)といって息を"はかはか"させながら行っている運動は長時間続けることができませんので、有酸素運動を越えた過度な危険な運動といえます。 - 安全で効果的運動=適度な運動の目安
- 運動は軽すぎては有効な効果は得られませんが、心臓発作や心不全増悪のリスクを冒してまで行う必要はありません。簡単な目安としては "息がはずむ程度" "会話・鼻歌を口ずさみながら続けることができる出来る最大の運動" と覚えてください。実際、心拍数はトントントントンと数えられる程度で血圧は殆ど上昇しないぐらいです。(筋肉トレーニングのような"いきむ"運動は心拍数が上昇せず血圧だけが上昇しやすく危険です。たとえば昔、屋外にあったトイレで大便をするような場合です=脳出血が多く発症していました。)冬季間の野外での運動は血圧の上昇を招きやすく危険です。ウォーキングなど行う場合は、早朝・深夜は避けて少しでも暖かく、人の眼のある時間帯に行ってください。
- 最後に
- 日頃から少しでも快適な生活を取り戻すため、大変な努力をなさっていることと思います。より安全で有効な効果を得るためには、障害の回復だけに目をとらわれず、全身的な過剰な負荷にならないように主治医の指示を守り、焦らず、無理せず、毎日少しずつ続けることが大切です。リハビリテーション施行にあたり、心臓や呼吸機能に心配なことがありましたら是非下記までご相談下さい。
医療法人社団 諒和会 サンヒルズクリニック 医院長・小林 昇
(心臓リハビリテーション認定医 日本リハビリテーション学会 認定臨床医)